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コッツビュー再訪 (5)

それは一瞬の出来事だった。 双眼鏡越しにカリブーを捉えたランスは、長男のコーディーだけ連れてスノーモービルのエンジンを吹かし、あっという間にその姿が小さくなった。 数百メートル先の大雪原の上を全力で走るカリブーは3匹ほど。この距離からでも、小バエのようなその小さな点が、死の恐怖からありったけの力を込めて逃げる様子が確認できた。 その後

コッツビュー再訪 (4)

私はチャック・シェイファーからの連絡を待ちながら、残された時間を有効に使う術を探した。 幸いにも私はこの町にいくつかの友人がいる。ハーマンの家に居候していることもあり、この哀れな日本人学生をフィールドに連れ出してくれる人を見つけることはそう難しくなかった。 ハーマンの甥っ子にあたるランス・クラマーは、この町で牧師をしている、人口300

コッツビュー再訪 ⑶

海辺にぽつりと立つ小さな家へと続く道には足跡もなく、ひっそりと静まりかえっていた。ボートやバギーの上には厚い雪が被っていて、長らく使われていないことが分かる。半年前はけたましく吠えていた白い大きな犬もいない。 私は心の片隅で何かとてつもなく悪い予感を抱きながら、彼の家へと近づいた。 ポーチには食べ残しのゴミ、防寒着、釣り竿などが乱雑に

コッツビュー再訪 ⑵

3月のアラスカは、長かった冬がようやく終わるという前向きな雰囲気に包まれている。 子供たちは嬉しそうにダウンジャケットを着込んでリュックを背負い、大人たちは車で学校まで送り届けた後、職場へと向かう。ハーマンはいつものようにテレビをつけ、サーモスにいれた熱いコーヒーをすする。私は遅い朝食を食べた後、窓の外を見た。真っ青な空と真っ白な雪が

コッツビュー再訪 ⑴

どこまでも続く真っ白な地平線のなかに、小さな点が見えてきた。 上空から見るその町は、まるで地球という大きな顔にできたホクロのようだ。 飛行機の窓に押し当てた額がひんやりと冷たい。 点が少しずつ大きくなっていき、形をつくりはじめた。いくつも並んだ風車が見える。 戻ってきた——。 たった半年前の事なのに、なぜか遠い昔のことのように思える。それ