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Hopeless : 極北の消えるルーツと若者たち 序章

by Keijiro Ohata

チャック・シェイファーはいつものようにコーヒーをすすりながら、本棚から読みかけの本を手に取った。彼はボートから置き網を垂らした後、サーモンがかかるまでの間キャビンに戻り、決まってそうして時間を費やしていた。

しかしその日はいつもと様子が違うことに彼はすぐに気がついた。

チャックは顔をあげ、窓の外を見た。網の様子がおかしい。水面に大きな水しぶきがあがる。

何かとてつもなく大きな獲物がかかっているーー。

本とコーヒーを置き、チャックは寝室からライフルを取り出す。いつものベレー帽を被り、湧き上がる好奇心を抑えながら手巻きタバコを巻き上げて火をつけ、ゆっくりとした足取りでボートに向かう。

水面から白い大きな身体が必死にもがく姿が見えた。ベルーガクジラだ。チャックはライフルを構え、ボートに近づく。
どうしてこんなに浅瀬にベルーガがいるのか。彼は不思議に思いながらも、思わぬ獲物の登場に心を躍らせ、スコープを覗いて狙いを定めた。

パアーーン

大暴れするクジラの腹にチャックの弾が命中した。仕留めたかーー。
しかしクジラは傷を受けながらも、ありったけの力を込めて身をよじり、ついに網から脱出した。チャックはすかさずもう一発放ったが、弾は荒れる波のなかに吸い込まれた。手応えはない。
そしてあっという間にクジラは姿を消していた。


一発目は確実に命中した。致命傷を負ったはずのクジラはそれほど遠くに逃げられまい。チャックはライフルを肩にかけ、ゆっくりとキャビンへ戻った。そして双眼鏡を取り出し、キャビンの屋根によじ登った。海岸沿いにあるチャックのキャビンからは水平線が限りなく見渡せる。彼は注意深く水面を観察し、逃げたクジラが浮き上がるのを待った。

さほど待たずして、彼はクジラの行方を見つけた。200メートルほど先の海面に白い大きな身体が見えた。おそらく体力を消耗している。チャックは屋根から降り、再びボートに向かった。今度は網を海に投げ捨て、エンジンをふかしてクジラのいた方角へ急ぐ。

クジラは息も絶え絶えでゆっくりと海面を泳いでいた。ボートが近づいてももはや逃げる気配もない。チャックは引き金に指をかけ、今度はクジラの頭めがけて弾を放った。今度こそ仕留めた。
すかさずモリを打ち込み、クジラをそのままボートで引き連れて海岸へ戻った。

岸に着くとチャックはボートを降り、隣のキャビンの扉を叩いた。

「大きな獲物を捕まえた。少し手伝ってくれないか。好きな部位を持って行っていいから」






Keijiro Ohata
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