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フィンランド 湖とサウナと トレッキングと (上)

by Keijiro Ohata

日本では猛暑が尾を引いていた9月末。

約7500キロ離れた北欧、フィンランドでは秋から冬へと確かに季節が巡っていた。

朝晩は0℃近くまで冷え込むなか、薪を燃やしてサウナで身体を芯から温める。全身の毛穴から汗が噴き出すとそのまま湖に飛び込む。むせるような暑さと突き刺す冷たさを交互に味わうと、身体はまるで生まれ変わったかのように新鮮で研ぎ澄まされるのだった。

落ち葉が色づきはじめた森の中では、冬ごもりの前にベリーを摘む人や犬を連れ立ちトレッキングに息を切らす人の姿があった。

湖に浮かぶコテージ

今回私と彼女が訪れたのは、首都ヘルシンキから車で約1時間のカルキラ。いくつもの湖が点在する人口わずか9千人ほどの小さな町だ。中心部からさらに20分ほど離れたヴァハベシ湖に浮かぶ小島に、5日間滞在したコテージがある。

小島には私たちのコテージ以外何もない。湖のほとりに幾つかあるキャビンはどれも短い夏を過ごすための別荘。夏が駆け抜けた後の9月末には誰もおらず、大きな湖を独り占めできた。

コテージの持ち主に案内されたのは湖の西岸。約500メートル離れた小島に渡るため、私たちの目の前に置かれていたのは手作りのイカダだった。

フィンランドの国旗が風になびき、モーターが搭載されたそのイカダは、簡単な操作でゆっくりと凪いだ湖の上を滑りはじめた。小島にたどり着く手前でエンジンを止め、あとは余力で小さなポーチに乗り上げた。

完全な静寂——。鬱蒼とした森に囲まれたその湖には、都会では得がたい静けさと平穏があった。そよ風に吹かれてこすれ合う葉っぱの音、優しく岩にぶつかるさざ波の音以外聞こえてこない。時折、せわしなく働くキツツキが木の幹を打つ音がどこまでも響いた。

サウナから湖へ

島の端っこにある小さな小屋がサウナだ。

小屋を一歩出ると、白く塗装されたウッドデッキが湖へと突き出している。

広さ6畳ほどの中には、シャワーが併設。4人は悠に座れる2段式の木製のベンチが檜の香りをかすかに立てていた。

ストーブの上には水をいれたタンクが設置され、暖炉の炎で温められる仕組み。

持ち主いわく、「昔のサウナはこの温めた水と冷たい水を混ぜることでちょうどいい温度にして身体を洗っていた」という。

北極圏に近いフィンランドの夏は夜11時ごろまで日が落ちないが、すっかり秋になった9月末の日没は8時ごろ。夕暮れ時にさしかかったころ、サウナのストーブに薪を投じて火をつけた。

マッチの火が薪に燃え移ると、屋根から突き出した煙突が煙りを吐きはじめた。15分おきに新しい薪を投げ込み、約1時間でサウナの温度は60℃まで達した。

私たちは水着に着替え、冷気に体温を奪われる前にサウナに駆け込んだ。

ベンチの上段に座ると、暖気が身体の表面からなでるように温めていく。ほどなくして鼻や首筋がじわりと汗ばんできた。

どこから入ってきたのか、数匹のハエが四角の窓から漏れるオレンジの夕陽を求めて飛び交っていた。

湖から汲んだ水をひしゃくで掬い、ストーブの上に敷き詰められた石にかける。ゴォーという轟音と共に熱い水蒸気があがった。ローリューだ。この蒸気をお互いに扇いで身体に振りかける。

15分ほど経っただろうか。ぼーっと頭が湯気を出し始め、気づけば体中から滝のような汗が噴き出していた。

さきほどまで威勢良く飛んでいたハエは窓にへばりついたように動かなくなった。温度計が65℃近くを指していた。

もうダメだ——。

私はたまらなくなってサウナを飛び出した。外に出た瞬間、冷たい空気が体中を総攻撃して熱を奪いにかかる。彼女もあとにつづき、二人でデッキを小走りに湖へと向かう。

デッキの先端から湖へと降りるはしごを伝って左足の指先から浸ける。

「冷たっ!」

思わず声をあげてしまうほど湖の水温は低く感じた。おそるおそる両足を突っ込み腰まで入るが10秒と待てずにあがってしまった。

私に続いて入水した彼女の悲鳴が湖の上を滑って森全体に響き渡った。驚いた鳥たちが一斉に飛び去り、またすぐに平穏が辺りを支配した。

まだ身体の熱が足りないのだろう。コップ1杯の水を飲み込み、すぐにサウナに戻って再び薪を投じた。湖に浸けた太ももの表面がじわりじわりと温め直されるのがわかった。

汗はいったん引いたが、今度は5分ほどでまた滝のような汗が噴き出した。

これでもか、とばかりに石に水をかけて水蒸気を浴びた。サウナの熱で完全武装した私たちはまたデッキを走り、湖に向かった。

つづく

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